インプラントの事実を伝える対談

國弘と小澤によるインプラントの対談

2014年12月29日

※写真右
國弘 幸伸(くにひろ たかのぶ)
慶應義塾大学医学部耳鼻咽喉科/准教授

※写真左
小澤 俊文(おざわとしふみ)
おざわクリニック/院長

──お二人の知り合ったきっかけを教えて下さい。

【小澤】
國弘先生には、3〜4年前に雑誌の投稿を見て、私が国際口腔インプラント学会の大会長の時に、耳鼻科の講演を依頼しました。

【國弘】
その時は、時間が短くてほとんど喋れなかったんです。
その後時々、インプラント関連の学会やスタディグループで話をすることがありましたので、インプラント関連の資料を集めたりしていました。

1.「医学部」と「歯学部」の卒後教育の違いとは?

【國弘】
医学部と歯学部は、卒後教育がぜんぜん違うんです。僕は耳鼻科医なのですが、耳鼻科医は基本的に「外科医」なのです。
Head and Neck surgery(ヘッド・アンド・ネック・サージェリー、頭頸部外科)なのです。ですので、手術の手技(しゅぎ)を学んできました。
眼科、脳外科、形成外科、口腔外科とコラボでいつも手術をします。
インプラントも、一種の外科ですね。

医科で「外科治療は、こう修得するべきだ」というのと、歯科の修得方法があまりにも違うのです、勉強する環境が違うのです。
医科は、卒後教育に患者さんがいっぱいいる環境で、指導医のいる中で修練を積むことが出来るのです。
ところが歯科は、すぐに独立しちゃうので、誰かについて一つ一つの技術について基礎から学んで、長期的な経過を見る機会が極めて少ないのです。
外科は技術です、職人です。

講習会やセミナーでは、技術は身に付きません。
手取り足取り教えてもらって、見よう見まねで、単純なことを何十回何百回と繰り返していかないと身に付きません。

ところが、歯科のインプラントは、セミナー花盛りです。
セミナーを受け、受講証もらい、待合室に飾ると「おお、凄い勉強してる」となります。医科の世界では、そういう人はいません。
勉強したからって賞状を張ってある医院は、ありません。
医者自身は、学会発表したからって臨床ですぐ出来るなんて誰も思っていません。
「臨床の腕前」と「学会発表」は、あまり関係ないと思っています。

インプラントの専門医も、医科・歯科の博士号も「スタートライン」です。
あって当たり前で「ある一定のトレーニングを積んだ」というだけの事です。
運転免許を取るのに、仮免でやっと路上に出た、という感じです。

【小澤】
僕はすぐ開業したわけでなく、大学病院が長かったので(口腔外科に13年いた)という特殊な経歴なので先生の言っている事はよく分かります。
最初は認定証を壁に掛けなかったのですが、自分で分かっているだけでは患者さんが来ないという事が分かり、いろんな先生のやり方をミックスして、今に至ります。

【國弘】
耳鼻科ですごく流行った開業医がいて、それには2つ要因があります。
1つは立地・対応です、2つは手術をしないのです。

どういうことかというと、耳鼻科の手術、つまり頭頸部はリスクが高いのでそのリスクを冒さないということです。
全身のケアや呼吸器のケアなど、トラブルの時の対応ができないと大変な事になることを知っています。
いい加減なことが出来ないのでリスクを冒さない、「危険だ」という事を知っています。
自分の能力を、自分でわかってやっているので冒険はしません。
クリニックの対応できる範囲でやっています。

歯科の場合は、誇大広告していて、信用に値しません。
どうやってそのクリニックに行ったかを聞くと「ホームページ見ました」と言う。
それを見て患者さんは行っているわけです。
「誇大広告が、医療の世界で許されるのか?」と思います。
歯科のホームページは、いいことばかり書いてあります。
技術が伴っているかどうか、患者さんはわからない。
「能力のある歯科医師が流行る歯科業界にしなくはいけない」と思うわけです。
そんな、自然な姿に戻るにはどうしたらいいか?考えてます。

そのためには患者さんに、賢くなってもらわなくてはならないです。
「身の丈にあった治療をする」・・・歯科医は、自分の対応できる範囲を見定めて対応する、なお且つ何かあった時には早め早めに対応することが大事です。
能力のない歯科医ほど自分の技術を客観的に見れない、威張りたがります。
そういったことを憂いています。

2.手術に100%はない、トラブルは避けられない

【國弘】
手術に100%成功はありえないんです、外科の原則が全然守られてない。
僕の診たインプラントの患者さんには、2つのパターンがあります。
1つは、起こるべきして起こった合併症です。
2つは、合併症が起きても、歯科医が全く適切な対応を取っていない。

トラブル起こした歯科医は、自分がトラブル起こした事を知らないことが多いです。
何故かというと、元々インプラントの手術をした医院でないところで診てもらって、紹介されてくるケースが多いからです。
あちこち歯科を回ってくる患者さんも多いです。
しかも、もともとインプラントの手術をした医院が潰れて無くなっているところも何軒もありました。

3.10年保証はおかしい

【小澤】
「10年保証」って、こういう観点から、おかしくないですか?
10年以上の経験のない先生が、10年保証というのは、おかしいですよね。

インプラントの成功率は、上あごが94〜95%、下あごが97〜98%と言われています。
でも、それは外国の名のある先生がやった成功率が、そのパーセンテージなのです。
自分でやったインプラントの成功率のデータではありません。
自分に当てはめるのは、違うと思います。

【國弘】
例えば、盲腸なんて外科の中ではとても簡単な手術だと思うじゃないですか。
でも、症例によってすごく簡単なものも、すごく難しい物もあるのです。
難しいかどうかを見抜けるようになるには、かなりの修練が必要なのです。
勘のようなものもあるのです、体で覚えていくのです。

例えばサイナスリフト(※1)も、簡単・難しいがあります。

どこからが、自分の技術で対応できて、できないか?下手な人ほど、見る目がないのです。そこが問題だと思います。

【小澤】
自分の技術を客観的に評価するのも、歯科医の技術の1つだと思います。
自分の技術を客観的に評価できるのは、実は、女医さんです。
難しい症例だと思うと、出来る先生に頼みます。
症状が、わからない状態でGOしている先生も中にはいらっしゃいます。
インプラントは、「セミナーに出て、教われば出来る」というものではないのです。

【國弘】
患者さんの症例写真をインターネットに了承なしに載せるのは、問題ですね。
「素晴らしい!」ってコメントがついていたりして・・・それはどうでしょうか?

人間はモルモットではないので、謙虚さがないといけないと僕は思います。
インターネットが、自己顕示欲の場になっている。
医科で患者さんの症例写真出したら、クビだと思います。
患者さんが写ってなくても、手術の時のスナップ写真を掲示しただけで大騒動になりました。

歯科の先生は、医療人では無いんじゃないかと思う。
医科と歯科の価値観が違うのです。

【小澤】
教育体制の差があるんですね。
医科は、直接命に結びついていることを、やる。
歯科は、虫歯を取って、かぶせる、入れ歯をする・・・それがメインで9割以上なんです。口腔外科は、昔は歯を抜くくらいだったんです。
そんな感じで開業していくので、外科的なトレーニングは全くしていないです。

【國弘】
インプラントは医科の領域に踏み込んでるとまでは言わないけど、インプラントはかなり総合力が必要な領域だと思います。
「ただ埋め込めばいい」というものではありません。
最終的には、噛み合わせも重要です。
補綴(ほてつ:歯が欠けたりなくなった場合に、かぶせ物や入れ歯などの人工物で補うこと)の知識もないといけない。

4.上顎洞(じょうがくどう:頬の下の空洞)にインプラントが落ちている?!

【國弘】
インプラントは、重篤(じゅうとく:病状が非常に重いこと)な併発症が生じやすい。
トラブルで、一番多い下歯槽神経損傷(かしそうしんけいそんしょう:下顎の神経を傷つける)は結構大きいトラブルですね。

【小澤】
あとは上顎洞(じょうがくどう:頬の下の空洞)関連がすごく多いんです。
2つ合わせると60%あります。
上顎(じょうがく:うわアゴのこと)のインプラントは、鼻の病気を誘発することがある。

──インプラントの長さって、どれくらいなんですか?

【小澤】
インプラントの長さは、7ミリ〜18ミリあります。

【國弘】
インプラントを上アゴに埋めた時に、上顎洞に入ってしまう。
入らなくても手術した時に感染が生じること、いわゆる「蓄膿症」になってしまいこともあります。

この間来た患者さんは、上顎洞の空洞の中にネジが入っちゃったケースでした。
とりあえず取らないといけないんですが、取れないんです、元のインプラントの術者が。そこが問題なんです。
リカバリー出来ない人が手術をすることが、問題なんです。
上顎洞の空洞に落ちたら落ちたで、その時にすぐ取れる技術を持っていないといけないでしょう?
なおかつ、患者さんに説明もしていないんです、放りっぱなし。

【小澤】
うちに来た患者さんでも、他の歯科でインプラントをして、20年近く落ちてるの気が付かなかった人がいます。
蓄膿症はあるんですが、「痛い」とかそういった自覚症状がないんです。
上顎洞の空洞に金属がある訳ですね・・・鼻の粘液で上顎洞にくっついているので、カラカラと音がすることもない。
普通そこには、空気しか無いんですけどね。

【國弘】
貫通していると、異物があるので感染を起こす。
それはしょうがないとして、自分で対応が出来ない人がやっているんです。
感染を起こして、すぐどこかに頼んで「取ってくれ」と頼んでいる歯科医は、かなりいい歯医者です。
ところが、歯科医院によっては言わない人がいる。

【小澤】
さっきの患者さんは、言ってもくれなかったし、対処もしてくれないと言ってました。

──モラルの問題ですね。

【國弘】
「医療人としてどうか?」というのは、そういうことです。
上顎洞炎になって、半年間抗生物質を出しているだけなんですよ、ずっと膿が出てて。
上顎洞炎ってことを、歯科医はひと言も言ってないんです・・・この間、1回もレントゲン撮ってない。
患者さんは、「上顎洞炎という言葉を、僕から初めて聞いた」と言っていました。

──上顎洞炎という事が、何故分かったのですか?

【國弘】
その患者さんは、別の病気で僕のところへ来ていたのです。
ある時、「実は先生、ここが」と言うから話を聞いたら、インプラントをやっていて右側の6番と7番が自然脱落していました。

──落ちたらどうなるんですか?

【國弘】
中に落ちたら取らなくちゃいけないですよ。
手術直後から化膿してるから、インプラントは抜けてしまう。
膿んでいるので、クラウン(かぶせ物)がいつまでたっても付けられない。薬だけ長期投与してるんですね。

【小澤】
外科的な知識がないからそうなるんですね。
あとは、モラルの問題ですね・・・レントゲン撮るとか、大学病院紹介するとか。

【國弘】
早く対応すれば、インプラントも助けることができる症例があると思っているんですよ。
結局、異物があるところに、抗生物質だけ投与していても、脱落しちゃいますよね。

──自分の失敗を隠し続けているわけですか?

【小澤】
隠しているのか、気付いていないのか、軽く考えているのか・・・。

【國弘】
そんなのがあまりにも多いんです。

【小澤】
上顎洞のトラブルが3割です。

【國弘】
鼻のトラブルで、大学病院の耳鼻科に患者さんが流れるんです。
インプラントのトラブルで、うちの口腔外科と耳鼻科にくる患者数は同じといってました。
口腔外科から耳鼻科に来ることもあります。

うちの口腔外科医は、サイナスリフトは一般の開業医がやっちゃダメだと言ってます。
僕が見ているよりもっと酷いケースを診てると思うし、口腔外科は歯科医と一緒なので厳しい目です。

5.トラブルに早く気が付ける「目」があるか?その時「対処」できる力があるか?もしくは頼むところがあるか?が大事です

【小澤】
手術は、教科書通りに進みません・・・模型でいくら練習してもダメなんです。
口の中は非常に大変です、応用力がないとダメなんですね。
舌はあるし、唾液(だえき)は出るし、血は出るし、動くし、見えにくい。
ハードルが高く、そういう中で成功させることは難しい。

──だから失敗もある。

【小澤】
上顎のインプラントで、移植とかサイナスリフトがない普通にインプラントが打てる場合で、非常にうまい人がやって90%代なのです。
難しい症例は、もっと低くなります。

【國弘】
合併症が起きた時に、早期に発見する臨床家としての目が必要です。
これはちょっと怪しい、おかしい、とか。

【小澤】
サイナスリフトとかGBR(※2)とか、ちょっと難しい手術をしたら、2週間、絶対目を離してはいけないんです。
2週間後に感染することもあるので、ジワーっと、だから1ヶ月は目が離せないです。
サイナスリストとかGBRをやって、「次1週間後、10日後に来てください」って先生結構いるんですね。
「遠くから飛行機で来てるから診れない」では、管理が出来ません。

こんなにたくさんやってきた人間でも、何が起こるかわからない、厳重管理しないと不安でしょうがない、小さな変化を逃さない。
一週間以内に2〜3回来てもらうようにしています。

【國弘】
自分が手術やったときの傷が、正常だとどう治っていくか?というのをたくさん診ておかなくちゃいけないんですよ。
たくさん診ておくと、「あっ!」って異常があったら分かる。
触ってみるとか、腫れをみるとか、いろんなことを、ちょっとした兆候を見逃さないようにして、それが怪しいと思った時に後手後手に回らないようにしないといけない。

──メーカーのセミナーじゃ、身につかないですよね。

【國弘】【小澤】
そうなんですよ。

【小澤】
やり方こうやればいいと漠然とわかりますが、それを成功させるのは大変なんです。

【國弘】
インプラントが突き抜けた時に、拾える技術があればいいんです。
でも「簡単にできる」ということばかり言っているんです。

6.メーカーは医療者である

──メーカーは売りたい。

【國弘】
メーカーは売ることが商売だからいいんです。
ただし、医療機器メーカーは、「自分も医療人だ、社会的責任がある」という自覚を持たないといけないんです。
製薬業界は、とても制裁を受けています。
歯科業界は、聞いたことないです。

セミナーにお抱え講師がいて、いいことしか言わないんです。
僕が呼ばれた時に「あなたは成功例ばっかり言っているけど、それまでには失敗例もあったはず。だからこういう時にはこう気をつけよう」といった方がいいって言ったことあります。
次回のセミナーで僕を呼ぼうと思ったけど、ダメだって言われたそうです。

大学の教授も製薬会社のサポート受けてるけど、御用学者みたいなことは、医療界ではない。
歯科はそういう人たちがはびこって、セミナーだらけ、宣伝合戦。
本当に手術の勉強しようとか、インプラントの勉強しようとか、そういうんじゃないもの。

──こうあるべきだ、こうしていかなくてはいけないというのはありますか?

【國弘】
卒後教育どうするか?歯科医は、もう少し長く丁稚奉公しなくてはいけないと思います。すぐ院長になっちゃう。
長く・・10年位自分の信頼できるところについて、手取り足取り教えてもらう、そういう機会を自分から積極的に持つ。
卒後教育制度が、極めて貧弱です。

【小澤】
歯科って、補綴メインなんですよ、結局は。
大学の教育も、結局は削って積めるの補綴メインですから、外科の教育は無理です。

7.「医科」と「歯科」の連携が出来る歯科医かどうか?が重要です

【國弘】
上顎洞炎に話を戻しますが、耳鼻科医が関与して治したりとか、インプラントの合併症を予防する処置をしたりとか、そういう余地がある。
インプラントのリスクを下げることが出来るわけです。
今、耳鼻科医と歯科医の連携が上手くいっていない訳です。
なぜ上手くいかないかは、双方に責任があると思うのです。

耳鼻科医は、全くインプラントに関心がない。
でも、耳鼻科医が必ずしも対応できない。
歯科医の医科に対しての排斥がひどい。

【小澤】
僕は、どの科にでもお願いします。
僕は医科系の大学病院に長くいたので、いろんな科の先生と話をしますし、手紙のやりとりをしたり、コミュニケーションをとることは慣れています。

歯科の先生は、医者と話をしたことがない。
歯科の先生は「医科は我々と違う」と思っているのです。
全身的な知識もないし、敷居が高くて、お願いしていいのか分からない。
東京には、インプラントが分かる先生がいるからいいんですが、地方に行くとインプラントの上顎洞トラブルが分かる耳鼻科医がいない。

【國弘】
技術は、手取り足取りでないと身につかないんです。
講習会では身につかないんです。

【小澤】
トレーニングを積み重ねると、いろんな手術ができるようになるんです。
そういう風にすると、講習会行かなくて済む。
文献読むと、出来るようになるんです。

【國弘】
例えば、耳鼻科のある簡単な手術、扁桃腺の手術をやるじゃないですか。
何十回、何百回って最初やらされる訳ですよ。
そうすると、どんな難しい症例がきても、できるようになるんです・・・ちょっと、コツとかあるんですけど。

基本的に「外科の手術の手技」って同じなんです。
切開や結紮(けっさつ:http://www.nagano-matsushiro.or.jp/resident/movie)、止血(しけつ)したり・・・。
傷の治りが、どうやったらキレイに治るか?基本的な知識があれば、技術を見ていれば、違う手術でもある程度できるのです。
見よう見まねでやってるから。
それを「ココを気をつけろよ」って言われながらやれば、なんとかなる。

8.「手術」は「料理」と似ている

【國弘】
料理も一緒。
みりんが大さじどうのこうの・・と言っても、僕は覚えられない。
ところが、普段料理している人は、テレビで1回見れば、もう出来るわけですよ。

歯科の世界もきっとそうで、ずーっと基礎的な技術を積んでいる人は「ちょっとこうやれば出来るよ」というのを本で読めば出来るのです。
医科も、講習会がないわけではないのですが、あくまでも基礎的なベイシックの技術がある、という前提でやっているんです。

【小澤】
今の話の中で出てきた結紮(けっさつ)って分かります?
手術している時に血管が出てきたら、血管を糸で縛って切って、手術をどんどん中へ進めなくてはいけないんですよ。
講習会で、サイナスリフトやったことない人が「どうしたらいいんでしょう?」って質問が、いーっぱい来るんですよ。
それはベイシック、血管を縛る、血管の凝固(焼灼止血)、挫滅(ざめつ)による止血ってことを知らない、対処を知らないからです。

【國弘】
僕、びっくりしました。
僕は、歯医者さんて、歯科のスペシャリストだと思っている訳ですよ。
どこの歯医者行っても同じだと思っていましたが、こんなの技術の差があるということが知ると、怖くなります。

──10年保証って、どうなんでしょう?

【小澤】
自分の首を絞める事になります。
「先生のところ、10年保証してくれないんですか?」って言われます。

【國弘】
インプラントが10年持つか持たないかは、個々の患者さん、歯科医の腕前、患者さんの心がけといった、いろんなファクター(要因)で違ってきます。
それを一律「10年保証」っていうのは医療人の発想ではないです、10年保証はおかしいです。

【小澤】
加齢や、精神疾患、喫煙、糖尿病の悪化、ホルモンの変化など生体は年々変化していくのです。
その中で、どう保証するんでしょうか?

【國弘】
インプラントが抜けたときに、メーカーが歯科医に対して、部材の一生保証するのはいいと思います。
半年も経たないうちにグラグラし始めた時の保証は、初期不良だから歯科医が保証してもいいと思う。

1年経っておかしくなったケースは、歯科医の責任かどうか分からない。
一生保証というのは、メーカーが歯科医に対しての保証であるべきで、患者さんに対しての保証であるべきでない。
それを自分のクリニックの宣伝に使うのは、邪道だと思います。

【小澤】
そうですね。
メーカーも患者さんに「10年保証や一生保証してますよ」というニオイを醸し出していますよね。
インプラントメーカーには、責任があります。

そういえば、こんな事もありました。
東欧でインプラントの手術をした方が、グラグラするということで来院されたのです。
治すために、そのインプラントメーカーの部品が必要です。
その患者さんのインプラントは、東欧のものでしたので取り寄せようとしたのです。
最初、患者さんが直接やり取りしてくれたのですが「医者じゃなければダメだ」と、今度は私が交渉するも「日本に販売店がないから売れない」とか、しまいには「ロシア語でやりとりしてくれ」という事になりまして・・・どうにも前に進まないんですね。
「部品」さえあれば、何とかなるんですが、その「部品」が手に入らない。
世界的にシェアのあるメーカー(ノーベル等)なら、こういう事にはなりません。

例えば車の場合、メルセデスなら主要国にはディーラーがあるでしょうし、故障してもパーツがありますよね。
インプラントも同じなのです。

別の事例もあります。
他の医院さんで50万円掛けてインプラントをした患者さんが、当院にいらしたのです。
その患者さん曰く、院内には前出のノーベルのパンフレットがあったので、てっきりノーベルかと思っていた。
ところが、ふたを開けてびっくり、韓国のメーカーのものだった。
当院で、ノーベルでなかった事が判明したのです。
これからインプラントをする方は、「どこのメーカーのものか?」をよくよく確認して欲しいです。
「聞いちゃ失礼かしら?」なんて、そんなことはありません。
聞いてムッとするような先生なら、むしろやめたほうがいい(笑)。
それくらい「どこのメーカーか?」は、大事なんです。

──メーカーの営業さんが「オペに立ち会う」って話を聞きます。

【國弘】
は?

【小澤】
とくにビギナーの先生は、そういうことが多い・・メーカーがオペ中に教えている。

【國弘】
「講習会は単なるプロモーションだ」というつもりで行かないといけないのに、そういうつもりで行ってない、講師も講師。
歯科の業界は、モラルハザードしています。

9.トラブルも早く対処すれば、インプラントを保持して治療できる

【國弘】
耳鼻科に関しても、もう少し早く依頼してもらえばインプラントが助かるケースがあるんですよ。
ところが放りっぱなしで、患者さんに説明せず、抗生物質だけ投与していても、抜けちゃいますよね。
トラブルが起きても、早め早めに対応していけば、なんとかなるケースもあるんですよ。トラブルが起きた、感染が起きたということを、早めに見る目、対応する気持ち、実際に患者さんに説明する事が大事です。

それと、対処するためのネットワークを持っていることが必要です。
そういったものがない人が、誇大広告をネットに出して、一生保証といってる。
それは医療人でないです。
この間もあったでしょう、医療は必ずトラブルが起きるんです。
ゼロには出来ないんです。
一生トラブルが起きないなんて、あり得ないです・・・商品じゃないんですから。
もうひとつ、小澤先生ならメールや電話もできるのだけど、もどかしいのは紹介状ひとつで来た人は、コンタクトが取れない、顔も浮かばない。
そういう人から受けても、上手く連携できないです。

──医科と歯科の連携、大切ですね。

【國弘】
やりとりしているうちに「この歯科医はモラル的にも能力的にもダメだ」と思うことがあるわけですよ。
ある患者さんに「他の歯科医の意見を聞いたらどうですか?」と言ったのです。
インプラントが抜けたから、もう1回インプラントをトライしたらどうですか?
インプラントを入れた歯科に行ったら「入れ歯で済ます」って話になったそうです。
その先生は、再インプラントできる技術がないんです。

でも、患者さんの本心は「もう1回インプラント入れたい」と思ってるんですよ。
そうしたら、その先生から「耳鼻科には、もう頼まない」ってメールが来ました。
患者さんは、モルモットじゃないから。
僕が見て信頼できない歯科医師の元に、知らん振りして帰すことがいいことかどうか。
ところが、歯科業界ではそのことが「患者を取った」って話になるんです。

僕達は、患者さんが他の意見を聞きたいと言ったら、ドンドコ患者さんの紹介状書いてますよ。
セカンドオピニオン聞きたいということなら、喜んで紹介状書いていますよ。

【小澤】
その患者さんも、自分がどういう状態なのか? どうしてそうなったのか?がよく分かってないんですね。
そこで失敗したんだから、こっち行けっていってるのに。

【國弘】
トラブルの紹介受けても、元の歯科にどうしても戻せないことがあるんです。
ところが、そのことでものすごく恨みを買ってます。
医科は、眼科、精神科、脳外科、神経内科など、いろんな科と協調して連携しなくちゃいけないんです。
お互い連携が出来る人とでないとできません。

【小澤】
地方で耳鼻科の先生見つからないんだったら、自分から歩み寄って「こういうことをやってほしい」と挨拶に行ってやってもらうのがいいんじゃないかと思います。
東京だからいいですよ、全国的にこういう先生いないですよ。

──いかに医科とコミュニケーションを取れるか?ネットワークがあるか?も、歯科医院の選ぶ基準、保険ですよね。最後に言いたいことは?

【小澤】
患者さんが勉強するのが一番良いのかなと思います。
ホームページだけでなく、いろいろな先生の話を聞いたりとか・・・。

【國弘】
どこのホームページもプロモーション用のサイトでしかないので。

【小澤】
ですから、良い情報だけでない、役に立つホームページをつくろうと思ったのです。

【國弘】
それを見て来てくれる患者さんもいると思います。

【小澤】
見ている方向は、患者さんですよね。
全ては、患者さんのためにです。
最後、患者さんが笑顔になれるための、ホームページにしたいと思います。

(※1)サイナスリフト
上顎洞底挙上術( じょうがくどうていきょじょうじゅつ)のこと。上顎洞に移植骨や骨補填材、インプラント本体の一部を挿入して、上顎洞の底部分を押し上げる技術。
インプラントネットより引用: http://www.implant.ac/implant_html/care/more/ope-sinus.htm

(※2)GBR
Guided Bone Regenerationの略。GBR(骨誘導再生)法とは、欠損した歯槽骨や顎骨などの骨組織の再生を促す治療方法です。
インプラントを埋め入れるために十分な骨の量がない場合などに利用されます。
インプラントネットより引用: http://www.implant.ac/implant_html/care/more/ope-gbr.htm